😅ゴローの人生楽しんだ方がいいね!

日々の生活を中心に、たまに自然を愛でながらのキャンプライフ

▶かすかな記録

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古本屋で購入した本の一部ですが、読んでみてください。
※内容は、少し修整してあります。


若いころのことを思い出し、懺悔したい、いやせずにいられない出来事があるだろう。

とても深くどうしようものない後悔が・・・

同級生によし子という女の子がいた。

彼女は早くしてお母さんを亡くし、二人の弟の面倒もみなければならなかった。父は魚の行商である。

つまり、よし子は母親がわりといっていい。父の仕事も芳しくなく経済的にも恵まれず、服装はみすぼらしく汚かった。


今にして思えば母親、妻がわりの環境から自分のことにかまっているどころではなかったのであろう。

そのよし子とは、六年生のときに隣の席になった。私といえば彼女より少しばかり成績がよく、家庭も裕福であった。

生意気で口の悪い私は、先頭に立ってよし子をけなした。
「きたねぇから、もっと離れろ」「虱うつすなよ」この私の言葉に周囲はさらにはやしたてた。

「魚の生臭い臭いがしてくさいから、だれもよし子に近づくな」「よし子、同じ服を何週間着ているんだ」
「毎日風呂に入って頭洗って虱を取ってこいよ」

こうした嫌がらせにもよし子は泣きもせずじっと耐えた。
泣いたり、涙を見せたりするともっといじめられると思ったのだろう。

しかもよし子の良いところは、担任にも一度の告げ口をしないことだ。担任は屈指の怖い先生なので、告げ口されれば叱られ惨めになることは確実である。

卑怯な我々は、よし子が告げ口しないのを知ってさらにエスカレートさせた。

そんな或る日、クラスで漢字のテストが行われた。
どうしても解けない漢字が二つ私にはあった。困った私が隣のよし子の答案用紙をみるとちゃんと記入してあり、それも正解である。私はカンニングした。

その後、答案用紙の返却があり満点は一人だけと先生が私を誉めてくれた。私は後ろめたさはあったが、何せ満点は自分だけなんだから満足だった。

しかし、よし子の答案用紙をみると真っ白くなってしまった。なんと間違いは一つだけで98点だったのである。私がカンニングしなければよし子が最高得点者となる。

幸いなことに、私がカンニングしたことはよし子は知らないようである。それどころか「さすがは五郎さんね」と笑みをもって心から言ってくれたのだ。

それに対して私は「簡単な問題だったからな」と当然のように答えた。
先生へ正直に話しよし子に誤るべきだったが、まったくをもって情けない、数十年たったいまでも堪えならない。

授業のあとによし子の答案用紙を見てクラスの悪童どもが・・・

「五郎の答えを見て書いたのだろう」「おまえに98点もとれるわけがねぇよ」「カンニングしてまでもいい点数とりたかったのか」と口をそろえて中傷を浴びせた。

さすがの私も、このときには加われなかったが、あまりに周囲が騒ぎ立てるため私の心の中の後ろめたさが消え逆に連中の尻馬に乗る発言をしてしまった。

「やっぱり、おまえは俺の答えを見たんだろう、ずるいと思わないのか。この虱女め」

するとよし子は泣き声で「私は五郎さんの答えは見ていません。着てる物や髪は汚いかもしれないけど、心は汚くないです」と机に顔を伏せた後にこう言いました。
「私をどこまでいじめれば気が済むの!」叫びながら校庭のほうへ走っていった。

よし子の初めて見るその言動に我々は驚き言葉を失った。
私はそのときよし子の後を追いかけ土下座したい衝動に駆られたが、それどころか連中を前に「ほんとのことを言われたので、あれほど怒ったんだ」と胸を反らせた。

その後戻ってきたよし子は、目を充血させまぶたを厚く腫れさせていた。
そして、とうとう私はよし子へ誤らずに卒業式を迎えることになった。だが式の当日に配られた「卒業文集」を見て私は枕を濡らしてしまった。

よし子の作文の最後の二行が私の涙腺を刺激した。この二行によし子のすべての思いがこめられている。
その理由は改めて書くまでもないが、書く必要もない。

それにして私は随分とよし子にひどい仕打ちをし続けた。謝罪しても謝罪しても尽くせるものではない。許しを乞うても許されるものではない。

機会あるごとに後悔とざんげと反省の気持ちから家族に当時のことを話ししている。
ただ困ることが二つある。ひとつは自分が語るたびに涙をこぼしてしまうことである。もうひとつは聞いている家族も泣き出してしまうことである。

よし子さんの卒業後についての消息未だに分からない。
しかし、芯が強く思いやりのある女性だけにきっと幸せな家庭を築いていることは間違いないだろう。

よき家族に恵まれ、そしてきれいな服装で・・・

それにしても卒業文集の最後の二行は、今でも大きな衝撃だった。
あの二行を読まなかったら現在の私はないだろう。



「わたしが今一番欲しいのは、母でもなく、本当のお友達です。そしてきれいなお洋服です」



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